「租税教育」の授業を、はじめさせていただいて、もう10年になります。 毎年、いくつかの学校で担当させていただいています。 税にかかわる仕事をするひとりとして、「租税教育」の重要性を、切実に感じています。 単に税金の知識を伝えるという意味だけでなく、少し大げさに聞こえるかもしれませんが、国家の将来を左右しかねないほど重要なものだと感じます。
じつはこの「租税教育」という仕事、一度やるとやめられません。 楽しくそしてとても素晴らしい仕事なのです。 税理士をやっていて良かったと心底感じることのできる仕事なのです。 ともあれ、まずは、授業の様子をお伝えしようと思います。
授業風景は、パブリシティーの租税教室 をご参照下さい。
「こんにちは、僕は、寺本和生といいます。税理士をしています。」
「今日は、皆さんといっしょに『税金』について考えたいと思います。」
「さーて、まず皆さんに質問します。皆さんが知っている税金には、どんなものがありますか?。」
いろいろ答が出てきますが、消費税が一番最初です。
その後も、いろいろと挙がります。
所得税・法人税・相続税・固定資産税・タバコ税・酒税・自動車税などなど。
ここはつかみの部分ですから、各税目について詳細の解説はしません。
一つ一つ、一言でどのような税金なのかを解説するにとどめます。
例えば、法人税なら、「会社が利益を得たときにかかる税金ですね」
固定資産税なら、「土地とか建物を持っている人にかかる税金です」
まじめな子は、ここでノートを取り始めますが、このような内容をノートに取り出すと、授業は知識の詰め込みになります。
そこで、「一つ一つの税金の内容は、ノートに記入しなくてもいいよ。今日は税金のことを覚えてもらうのではなく、税金について考えてもらう授業にしたいのです。」と、伝えます。
「みんな、いろいろな税金を知っていますね。
ちょっと変わった税金では、京都には『間口税』というのがありました。
家が道路に面している長さによって、税金がかかったんです。
だから、『うなぎの寝床』というように、
間口が狭くて、奥に長い家が京都には多いのです。
税金は、その町の町並みに影響を与えることもあるんです。
外国には『ひげ税』という変わった税金もあるそうです。」
「では、ここで少しゲームをしようと思います。
このクラスを、一つの国だと考えてみましょう。
国の名前は、『小倉の国』としましょう。」(小倉小学校なので)
「皆さんをいくつかのグループにわけます。
Aグループは、収入1万円。
Bグループは、収入10万円。
Cグループは、収入50万円。
Dグループは、収入100万円。」
本当は所得のほうが正しいのですが、小学6年生に所得の概念を説明するのは大変なので、収入ということで説明します。
「さーて、仮に、僕がこの『小倉の国』の総理大臣だとしてください。」
「総理大臣の僕は、『小倉の国』を、みんなのために運営していこうと思います。
でも、何をするにもお金が必要です。
そこで皆さんから税金を集めたいと思います。」
「全員から、5万円ずつ集めたいと思いますが、それで良いでしょうか?」
歓声が上がります。
いろいろな声が聞こえます。
普通の授業なら、私語厳禁なのでしょうが、「税金」というテーマはそれだけで硬いのです。
多くの声が挙がらないと「租税教室」にならず、「租税講義」になってしまいます。
そこで、出きる限り、皆さんに自由にしゃべってもらうようにします。
少し落ち着いたところで、
「Dグループの人達は、収入が100万円もあるから、5万円の税金を、支払ってくれますか?」
「Aグループの人達は、収入は1万円でしたね。どうしましょう?」
いろいろな意見が出てきますが、
『一定額ではなく、一定の率にすればいい。』という意見が出てきます。
この意見は必ず出てきます。
「みんな同じ額にするのではなく、一定の率で税金を負担する。とても良い案が出てきました。」
「では、一定率にするとして何%にしましょう。」
子供達に決めてもらいます。
「皆さんの意見で、10%ということになりました。」
これで、みんな少し落ち着きます。
「ところで、日本では、だいたい次のようになっています。
Aグループの人は、収入が少ないので、税金は無し。
Bグループの人は、10%。
Cグループの人は、20%。
Dグループの人は、30%。」
「そしてさらに大切なこと、じつはね、
税金は、総理大臣が決めているのではありません。
どんな税金を、いくら、誰に負担してもらうのか、
このことを決めているのは、国民に選ばれた国民の代表が、
国会で相談して決めているのです。
つまり、税金は、皆さん自身が決めているのです。」
その後も、この設定で、いろいろな質問を投げかけます。
例えば、下記のような質問を投げかけます。
「みんなの中の、誰かが、『僕は税金を払いたくない』と言って、
税金を支払わなかったらどうしましょう。」
「税金をごまかすことをどう思いますか。」
いろいろと質問をして、その都度考えてもらい、意見を述べてもらいます。
出てきた意見は、すべて素晴らしい意見として受け止め、決して否定はしません。
この点は重要なポイントだと感じます。
「いい意見が出ましたね。」
「素晴らしいところに気がつきましたね。」といった感じです。
例えば、「僕は絶対税金を払いたくない」と言うような意見が出てきても否定しません。
私の担当した授業で一度そのような意見が出てきました。
その時は、その子が逆に、他の子供達から責められるような雰囲気になりました。
そこで、
「税金を払いたくないというのも立派な主張の一つです。
ただただ悪いことと決めつけてしまわずに、まず意見を聞いてみましょう。」
「君は、どうして税金を払いたくないと感じるのでしょう。何か理由がありますか。」
「だって、ごまかしている人いっぱいいるやん。正直者が馬鹿を見るの嫌や」
「君の気持ちよーく分かります。
さてみなさんは、どうですか。
自分のまわりに税金をごまかしている人がいます。あの人もこの人も。
それでも、自分だけは正しく税金を支払うことができますか。」
教室が静かになりました。
何人かの子に、「君はどう?」と聞いてみると、
「僕も払いたくなくなると思う。」
「私も・・」
「わたしは、それでもちゃんと払いたいけど・・」
「そうだよね。まわりにごまかす人がいたら、自分もごまかしたくなっちゃうね。
いろいろな意見や考えがあっていいのです。
大切なことは、それらをちゃんと出し合って、
みんなで考え調整し決めてゆくことだと僕は思います。
そして、もっと大切なことは、みんなで決めたルールを、
みんなで守ってゆこうという姿勢だと感じます。
税金は、自分たちで決めたルール、
この国を素晴らしいものにしたいというみんなの思いがこもったルールなのです。」
「さて、次の質問に移りたいと思います。
総理大臣である僕は、集めた税金を使って、この国のために、役立てたいと思いますが、何に使いましょう。」
この答はなかなか出ません。
多分、クラスを一つの国と想定したときに、
その国として何にお金を使うかというイメージがわいてこないのだと感じます。
出なければ、質問を変えて、
「少し難しかったかな。それでは質問を変えます。
日本の国は税金をどのように使っていると思いますか。」
学校、病院、道路、図書館等々たくさん出てきます。
「では次の質問。
総理大臣である僕が、僕はたくさん借金を抱えているから、
皆さんから集めた税金を使って、自分の借金を返すことに使ったら?」
「じつはね、税金をどう使うかということも、総理大臣が決めているのではないのです。
みんなの代表である国会で、一年間の、税金の使い方を決めて、
総理大臣は、その決められた通りに使うことになっています。」
「では、最後の質問です。
日本の国は、皆さんが小学校に入学してから、高校を卒業するまでの12年間に、
一人あたり、いくらの税金を使っていると思いますか?」
たいてい、50万円から500万円ぐらいの答が帰ってきます。
「実は、皆さん一人一人に、12年間で1200万円、
毎年100万円の税金を使っているのです。」
ここでも、大歓声が上がります。
「では、なぜ、日本の国は、皆さん一人一人のために、
1200万円ものお金を使うのだと思いますか?」
皆さんに答えてもらってから、私のほうで最後のまとめをします。
「この国の将来を背負っていく皆さんに、
それだけ大きな期待をしているからだと僕は思います。
是非,皆さんはその期待にしっかりと応えてほしいと思います。」
大体こんな感じで、授業を進めます。
授業の最後は、質問の時間です。よく出る質問は次のようなものです。
この質問には、逆質問をかけて考えてもらいます。
「皆さんは、脱税をしたらどうなると思いますか?」
「脱税をすると、本来支払うべきだった税金に、罰金を加えて支払うことになります。
悪質な脱税の場合は、刑務所に入れられることもあります。」
私が、租税教育を担当した初年度は、小久保選手の話を、授業のつかみとして使いました。
ただ、始めに脱税の話をしてしまうと、
「脱税はいいことか悪いことか」が授業のメインテーマになってしまい、
倫理、道徳の問題になってしまいます。
税は、主体的なものであることを伝えるには、かえって逆効果になってしまいます。
今は、「税は、自分たちのために、自分たちで決めるもの」のテーマに絞っています。
「税は嫌なもの、強制されるもの、取られるもの」ではなく、
「税は大切なもの、自ら決めるもの、誇りを持って支払うもの」を伝えたいのです。
必ず出る質問ですが、実は、この質問が、授業のおさらいのために非常に重要となります。
「今日の授業をしっかりと振り返って下さい。
消費税は何%になるか?それを決めるのは、誰でしたか。皆さん自身でしたね。
この国を運営してゆくために,何をするのか。
そのために、いくらのお金が必要なのか。
そのお金を、どのように集めるのか。
どんな税金を、誰に、どれだけ、どうやって。
すべて、皆さんが決めるのです。」
「消費税は何%になるか?ではなく、
消費税を何%にするのかを、皆さん自身が決めるのです。」
この質問も、おさらいのために有効となります。
「税金をどう使うのかも、皆さんがきめていましたね。
税金がほんとうに無駄遣いされていないのかどうか、
皆さんは、いつも、しっかりと、見つめなければいけません。
このことは、国民としての勤めだと僕は思います。」
「所得税は、何歳になったら支払わなければなりませんか?」
「お店によっては、『うちは消費税を取りません』というところがありますが、どうしてですか?」
「国は、集めた税金をどこに保管しているのですか?」
この質問は、答えに苦労しました。
授業のあとには、感想文を書いてもらいます。
その場で書いてもらうこともありますし、時間の関係で、宿題と言うこともあります。
感想文の一部を紹介したいと思います。
「私は無駄な税金を払いたくないので、大人になってもタバコはすいません。」
「自分は税金のことを考えたことがなかったけれど、
大人になって、税金を払っている人の気持ちが分かった気がした。」
「私は、税金を国民が決めているというのを今日初めて知りました。
だから、正しい意見を出さないといけないんだなあと思いました。」
「『うそつき税』があったらいいと思います。
うそをついたら税金がかかる。正直に言ったら安くなる。嘘をつき通すと税金がどんどん高くなる。」
「働いていても収入が少ない人は税金をはらわなくていい。とてもやさしいなと思いました。」
「『なんで税金ってあるんやろう』と思っていたけれど、
税金がないと安全に暮らせないんだなと感じました。」
「いっぱい知らないことを教えてもらって、貴重な一時間になりました。
たったの一時間でもA4の紙いっぱいに字を書きました。」
まずはとにかく、皆さんも実施してみませんか。
あそこでも、ここでも、TKCの会計人が「租税教育」を実施している。
素晴らしいことだと感じます。
では、実際の実施までの準備について触れさせていただきます。
あくまでも参考です。
ターゲットは、地元の小学校。
対象は、6年生。
時期は、3学期2月のはじめです。
6年生の3学期にはいると政治経済を初めて習います。
国会、三権分立、国民の権利、三大義務など。
その直後が最も効果的ですし、授業が進めやすいと思います。
2学期中できるだけ早い時期に学校へ赴き、校長先生に面談を申し込みます。
持ってゆくものは、民間の税理士が担当している租税教室の新聞記事など、
なければ、この会報のコピーをお使い下さい。
「知り合いの税理士が、京都で、このような授業を担当させていただいています。
是非、貴校でもさせていただけませんか。」
という感じでOKだと思います。
外部講師として採用して下さるかどうかの決定は校長先生にあるようです。
総合学習が叫ばれる昨今、採用していただける可能性は非常に高いと考えられます。
実際に、租税教育を実施するかどうか、実施するならいつかという決定は、
6年生の担任の先生にあるようです。
また、学期ごとの細かいカリキュラムは、事前に組まれるようですので、
3学期になってから行動をおこすと、間に合わなくなります。
租税教育の実際の授業は、6年生全員を一度におこなう方法と、
各クラスごとにおこなう方法があります。
一度におこなえば、講師を担当する側も、時間は一時間ですみます。
クラスごとにやると、クラス分回数をするか、クラス分の講師をそろえる必要があります。
中学生や高校生の授業をすることも可能です。
基本的には同じ流れでよいと思いますが、
憲法の条文が良いテキストになると思います。
また、高校生なら、「税理士」という職業の紹介も有効です。
誇り高い仕事としてTKC職業会計人が目指していること、
日々私たちがおこなっていることを、お話しすることは、有意義だと思います。
ひとつだけ、地域によっては微妙な問題として、
「租推協」(租税教育推進協議会)との関連の問題があるかもしれません。
「租推協」は、(正確ではありませんが)署と地方税の当局と教育委員会で構成され、
税理士会が賛助会員と言う形で参加している場合が多いようです。
事務局は、署の総務課にあり、総務課長補佐が担当されているようです。
「租推協」の租税教室は、11月の税を知る週間を中心に組み立てられます。
その時期が近づくと、署から、所轄内の全小学校宛に、租税教育実施の案内がいきます。
講師を担当するのは、署の職員さんです。
(地域によっては、一部税理士会からも講師を派遣している場合もあるようです。)
私の娘の小学校でも、最初、校長先生は、
「租推協」との関係を少し気にしておられました。
でも官とはまた違った意味で、民間の税理士である私の授業に期待を寄せて下さり、
実施を決定して下さいました。
そこで、校長先生の不安を、できる限り取り除いて差し上げようと考え、
所轄の署の総務課長補佐を訪ね、
「娘の通っている小学校で、租税教育の授業を担当させていただくことになりました。
『租推協』との関連もあるかと思いましたのでお知らせにあがりました。」と事前にお伝えし、
地元の税理士会の支部長にも同様に事前報告いたしました。
私の場合は、署も税理士会も好意的に受け止めて下さり、様々な強力をしていただきました。
国税庁は、租税教育用のビデオや教材を数多く作成しています。
現物は、各署に設置されています。
総務課長補佐にお願いして、お借りすることも可能です。
私の授業では「惑星アトン」(短縮版)という15分のものを使用し、
事前あるいは、直前に生徒さんに見ていただいています。
ビデオの内容は、少年が、税金のない星「惑星アトン」につれていかれ、
ひったくりを目撃しても誰も助けない、病人がいても病院がない、
そんな惑星アトンの状態に疑問を持ち、国王に「税」の存在を伝えます。
折しも、惑星アトンにブラックホールが押し寄せ、
惑星が飲み込まれそうになります。
国王は、税の存在を知らない国民に、
各自が自家発電している電気を、惑星を守るための防御バリアーの、
エネルギー源として提供するように呼びかけ、国民はそれに応えます。
惑星アトンの人々は、この事件により、「税」の必要性に目覚める。
そんな話です。
「惑星アトン」は少し昔に作成されたもののようですが、
最近に作成されたものとしては
「マリンとヤマト不思議な日曜日」(17分もの)というビデオもあります。
租税教育は、・来から署を中心に行われてきました。
大変な努力を積み重ねてこられたのだと思います。
最近になって、税理士会も注目しはじめています。
租税教育を私たち税理士が担当するということは、大きな意味があると感じます。
それは、税理士法第一条が、税理士の独立性を規定しているからです。
租税教育は、本来的には、独立した立場の税理士が果たすべき仕事であると感じます。
「租税正義の実現」はTKC会計人の基本的な理念です。
そしてその意味には、いまある法律を真正面から受け止め守ってゆく(守らしめる)という側面と、
もう一つの大切な側面として、いまある法制を、国家と国民のために、
よりよいものに改正してゆく政治的な側面。
二面性があると言われています。
「租税教育」という活動は、
「租税正義の実現」の持つ2つの側面に対し、
その両面にわたって、最も基盤となる部分からアプローチする
という意味で大きな貢献をするものだと感じます。
飯塚毅全国会名誉会長は、TKC会報1976年2月号で、
「租税正義の護持者は税理士しかない」と述べておられます。
「租税教育」は、まさに私たち税理士に与えられた使命なのではないでしょうか。
国家と国民から絶対的な信頼を受け、
職業会計人が真に信頼され必要とされる社会(職域)つくり、
この世直しともいうべき課題を、
運命論に押し流されることなく、
自らの実践によって切り開いてゆく「職業会計人の職域防衛と運命打開」。
さらには、TKC会計人の根本哲理であり、素晴らしい人生哲理である「自利利他」。
その実践の一つの形が「租税教育」なのではないかと感じます。
そう遠くない将来に、民間の税理士による「租税教育」が全国の小学校で実施される。
そんな社会を作り上げてゆく。
その主体者は、他でもない、税理士である私たち自身なのではないかと感じます。